「帝王切開死」無罪判決
赤ちゃんを出産する時の手術ミスで母親を死なせたとして逮捕(たいほ)された医師(いし)の裁判(さいばん)が、今月20日に福島(ふくしま)地方裁判所で開かれ、無罪の判決が言い渡されました。医療事故(いりょうじこ)の原因をどう突き止めるのか、その責任はどう取るべきか、などを巡って大きな注目を集めた裁判でした。
1万件に2、3例
医師が逮捕されたのは2006年2月。逮捕の理由は、福島県立大野(おおの)病院で04年12月に行われた手術の際、あってはならないミスによって母親(当時29歳)を死なせてしまったというものでした。
この手術は「帝王切開(ていおうせっかい)」と呼ばれるもので、様々な理由から赤ちゃんが自然に生まれてくるのが難しい時に、広く行われています。
ところが、実際に手術を始めてみると、赤ちゃんが育つ子宮(しきゅう)と、赤ちゃんに栄養を送る胎盤(たいばん)がくっついていることが分かりました。これは、とても珍しいケースで、1万件の出産に2、3例しかないといわれています。医師は胎盤をはがす作業を試みましたが、出血が多く、母親は亡くなってしまいました。赤ちゃんは無事でした。
裁判では、「命を助けるためには、胎盤をはがすのではなく、別の対応を取る義務(ぎむ)があったから有罪」という主張と、「医師の判断は、医学的に常識であり無罪」という主張が対立しましたが、1年半に及ぶ裁判の結果、無罪が言い渡されました。
逮捕に医学会反発
医師が逮捕された時、日本の医学界からは大きな反発が起きました。産科医(さんかい)などでつくる日本産科婦人科学会(にほんさんかふじんかがっかい)は「今回のケースは手術前の診断(しんだん)で異状(いじょう)を見つけるのは難しかった」「精いっぱい正しい対応をとったとしても、命を救えないことはある」という意見を発表しました。
この意見を出した背景には、「患者(かんじゃ)が死亡したら逮捕される」ということになると、産科医になろうという人が減るのではないかとの懸念(けねん)がありました。
今も、産科医不足は地方に行くほど深刻(しんこく)で、24時間勤務など厳しい状況で働いている医師は珍しくありません。このままでは、日本は安心して子供を産めない国になってしまうという危機感(ききかん)がありました。
一方では、手術や診察(しんさつ)の時に起きたミスについて、病院や医師は説明するどころか隠そうとしているのではないか、という不信感(ふしんかん)が国民の間に広がっているのも確かです。過去には、カルテを書き換(か)えてミスを隠そうとしていた事例もありました。
中立的な機関必要
警察に頼らないと、医療ミスの真相(しんそう)はわからずじまいになりやすい――。今回の裁判は、そんな日本の状況が背景にあったといえます。法律関係者からは「逮捕までする必要はなかった」という声も聞かれます。
厚生労働省(こうせいろうどうしょう)は、医療の専門家(せんもんか)だけでなく様々な立場の人たちが集まる中立的な機関(きかん)を作って、手術中に起きた事故などについて調べてもらう仕組みを検討(けんとう)しています。原因をしっかり特定することは、医師や病院に対する不信をなくすことにもつながります。実施(じっし)を急ぐべきでしょう。
(2008年9月2日 読売新聞)

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